脳波の誤解? Q&A

 
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脳波のなぜ?その1
脳波のなぜ?その2
脳波のなぜ?その3
脳波の異説


“ゲーム脳の恐怖”の脳波について

 
Q1;α波は大きい方がいいのか?                           
脳が休んでいる時に出るα波であるが、休めば休むほど大きくなるというものではない。振幅は50μV程度であって、大きくても100μVは越えない。
安静状態になる練習をすることによって出やすくなることはあるが、どんどん大きくなることはない。もし150μVを越えるようなα波の場合は高振幅αといって、脳の機能障害を疑わなくてはならない。
Q2;α波は出れば出るほど体にいいか?                            
リラックス状態にある時にα波が出やすいことから、これを積極的に出すことが脳や体にとってよいことであるかのようにいわれることがある。  
たしかにリラックスすることは悪いことではないが、α波は単に大脳皮質があまり働いていない状態に対応するものであって、出れば脳がどうかなるとか、体にいいということではない。もし、やたらとα波が出っぱなし、などという人がいたら、よっぽど頭を使っていないか、ボケていると考えた方がいい状態である。まして、大きすぎるα波は脳の機能障害さえ疑われる異常な波形である。 
Q3;脳が働くとβ波が増えるか?                            
上記の理由によって、そういうことはなく、ほとんどの場合、β波も減少する。
開眼したり、精神的な負荷がかかった時、α波に変わって「β波が出てきた」ように見えるのは、α波にくらべてその減少の程度がはるかに少ないため残存して、相対的に目立って見えるだけである。 

かつて毎日新聞の科学欄に「理系白書」という連載記事があり、TVゲームが子供の脳によい影響を与えない、という主旨の中に次のような内容が掲載されていた・・・

前頭野の活動レベルの指標となるベータ波は、子供がお手玉遊びをしている時は活発に出るが、TVゲームをするとゼロ近くまで低下する。ベータ波が消えたり、ぼーっとしている時に出るアルファ波並に低下する現象は、老人性痴呆症にもみられる・・・

ある医学博士の解説ということでまとめられている。記者が要約する際に正確さを欠いたのかもしれないが、「β波がぼーっとしている時のα波並に低下する・・・」というのは、まったく正しくないであろう。もしβ波が安静時のα波以上に出現したらえらいことである。異常な脳か、さもなくば薬物の影響でも考えなければいけない。
これはあやしげなアルファ波グッズの広告などでなく、ちゃんとした新聞の科学欄であるだけに、一般の人に対する影響は大きいのではないか。
この記事にはβ波のマッピング図もついているが、お手玉遊びの時にはTVゲーム時にはない大変な量のβ波が前頭部に出ている。おそらく、眼球運動か瞬目、筋電図であろうと思われるが、脳波の原波形がないので確認はできない。→(注)

脳波を扱う際、このようにマッピングやスペクトルが示されることが多いが、ほとんどの場合、解析結果だけであって脳波の原波形が示されていない。
脳波は、本来的に計測法の違いによって差が出やすく、かつもっともアーチファクトの入りやすいものであるだけに、解析結果だけが提示されていて波形がない場合にはよくよく気をつける必要がある。

(注)この記事の内容は、「ゲーム脳の恐怖」として出版され、話題になった。この本の脳波に関する記述については、“ゲーム脳”の脳波についてで詳述する。

Q4;脳の特定の部位を働かせるとそこに特定の波形が出るか?                           
ある部位が働くと基本的に脳波は減少するのであって、増えたり発現するということはない。  
覚醒時には、α波が明らかに後頭〜頭頂部優位に出ること以外に目立った偏在はなく、その他では、β波がやや頭頂〜前頭部に強く見えること、例外的にFmθ波やμリズムが局在することくらいである。
これ以外でもし極端な偏在があったら異常であるか、もしくはアーチファクトの誤認である。  
特定の部位に起因する脳波を見るためには、誘発脳波の手段をとらなければならない。 
Q5;α波と右脳とは関係があるか?                        
そういうことはない。
きき手が右手である人が多いこと、また左脳が言語機能に関して優位であることから、左脳の活性度が常にやや高くα波の抑制がかかって、右脳の方がα波が若干大きいことが多いとはされているが、だからといって、「α波は右脳の脳波」などということに根拠はない。もし極端に左右差があれば病的であるか、計測のミスである。   
脳の左右半球はそれぞれに機能を分担しかつ補完しあって活動しているが、世の中には「右脳信仰」のようなものがあって、右脳こそが大きな可能性を持っており、これを活用することがいいことであるかのように思われている場合がある。この方面では、「右脳開発」とか「アルファ波活用法」とかいった、一般向けのさまざまな本やセミナーが氾濫している。   

たとえば、あるホームページにあるこんな主旨の内容はまったく正しくない。

脳のエネルギーの流れや、脳のどの部分が興奮しているかなどを脳波で見ると、アルファー波は右脳を使っているときの方がよく出ている。  アルファー波が出ている時は、右脳が働いている。右脳が働いているときに、アルファー波が出現する。近頃、話題となっている右脳とアルファー波、この二つがとても密接な関係であることは確か。  右脳を刺激するには、絵を見たり、音楽を聴いたり、さらに散歩をするのも効果的。また、右脳につながる左耳や左目を、左の手足などを意識して使うのもいい。右脳を使って、しっかりアルファー波を出してはどうか・・・。 

また、あるホームページの要旨は・・・

左脳は言語情報、右脳は視覚情報を処理する。一定の時間内にある情報量は、言葉であればほんの少しでしかないが、画像は膨大で、その情報量の差は100万倍も違う。よって、同じ時間内にその画像情報を処理する右脳の方が左脳よりも100万倍速い処理能力を持っている。その右脳はα波で活性化される。すなわち、α波は右脳を活用させ全開させるスイッチである。またβ波は左脳を全開させるスイッチである。よって、アルファ波を出すようにすると、左脳だけを使う場合にくらべ比較にならないほどの能力を発揮できる・・・。 

まさに恐るべき理論!?であるが、脳の機能分担や情報処理法についての認識で正しくないうえ、脳がα波で活性化されるということはあり得ないことである。β波が左脳のスイッチで、α波は右脳のスイッチ、などというのもあまりに荒唐無稽であろう。

Q6;前頭部脳波によるこの研究は信頼できるか?                        

ある論文(※)で、投資行動と脳の関係が論じられていた。
実験的にコンピュータ上で投資行動を行い、その時の脳波を解析している。使用した機器は、NeuroSky社のMindSetで、ヘッドホン型になっていて左前額部と耳の1ch(Fp1-A1に相当)の脳波を記録するものである(日本でも市販され、現在これを応用したさまざまな製品が販売されている)。

この実験では、脳波(と筆者はいっている)信号を周波数解析し、δ,θ,α,βの各帯域成分の増減から投資に関する意識の状態を判定している。その結果、(1)δからβまでの全帯域成分に対するα波の割合が1%増加すると投資行動を促し、(2)β波の割合が1%増加すると投資行動を抑制する、という結論を得ている。

ここで脳波の一部が掲載されているが、それは下図のようなものである。


時間軸と振幅値が表示されていないが、これはほとんどが眼球運動および筋電図のアーチファクトである。この実験は開眼でディスプレイを見ながら行っているので、当然このような波形になる。
前頭部Fp1は、通常非常に小さく、逆にアーチファクトがもっとも入りやすい部位である(脳波のなぜ?その3)。とくに開眼状態では意味のある脳波を純粋に抽出することはほとんど難しい。
したがってこの部位での脳波をみるときにはアーチファクトに関する最新の注意が必要であるが、この論文にはその点については(脳波データにはさまざまなノイズが含まれているが、全体的に有効な波形が支配的ならば、結果に本質的な影響は与えないと考えている)と記載されているのみである。この筆者はδ波(様の波形)も含めこの波形全部を脳波だと考えて解析しているようである。さらに、純粋に脳波が記録されたとしても、不安定で曖昧さを含む脳波で、わずか1%の増減など意味のあるものではない。
前頭部の特に開眼時の脳波は信頼性が低く、さらに、正常者の覚醒時脳波では大きなδ波は出現せず、もし記録されていたらそれはアーチファクトであるという、脳波の知見を知っていればこのような間違いはおかさないと思われるが、安易に前頭部脳波を扱うとこのようなことになってしまう。

※CPR投資実験における被験者の脳波特性について 鷲田豊明(上智大学 2010)


 

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